【海外財産の生前相続対策】プロベート対策の3つの方法|ジョイントアカウント・トラスト・資産管理会社を専門家が解説
「海外に銀行口座や不動産を持っているが、自分が亡くなったら家族はどうすればいいのか」「プロベートという手続きがあると聞いたが、何をすればいいかわからない」。海外に資産を持つ日本人にとって、相続対策は日本国内の財産以上に複雑です。本記事では、絹川恭久先生のコラムをもとに、海外財産の生前相続対策として最も重要なプロベートを回避・軽減するための3つの方法を解説します。
この記事でわかること
- プロベートとは何か、なぜ海外財産を持つ人にとって問題なのか
- プロベートを回避する3つの生前対策(ジョイントアカウント・トラスト・資産管理会社)
- 複数国に資産がある場合の統括会社+トラストの組み合わせ戦略
プロベートとは ― 海外相続の最大のハードル
プロベート(Probate)とは、英米法圏の国々で相続が発生した際に、裁判所の監督のもとで行われる遺産検認・分配手続きです。香港、シンガポール、イギリス、アメリカ、オーストラリアなど、多くの英語圏の国でプロベートは必須の手続きとなっています。
プロベートには最短でも6ヶ月、複雑なケースでは数年かかることがあり、その間、遺族は海外の銀行口座や不動産にアクセスできません。さらに、弁護士費用、裁判所費用、翻訳費用など多額のコストが発生します。
遺言だけではプロベートは回避できない
重要な誤解として、「遺言を書いておけば大丈夫」という考えがあります。しかし、遺言を作成してもプロベート手続き自体は回避できません。遺言はプロベートの過程で裁判所に提出される書類の一つにすぎず、遺言の有無にかかわらず、プロベート手続きは発生します。さらに注意すべき点として、遺言は財産所在国ごとに別々に作成する必要があり、1通の遺言で複数国の財産をカバーしようとすると、かえって遺言がない場合よりも手続きが複雑化するリスクがあります。
したがって、海外財産の相続対策においては、「遺言を書く」ことではなく「プロベートを回避する仕組みを生前に構築する」ことが本質的な対策となります。
複数国に資産がある場合の問題
海外の複数の国に資産を持っている場合、国ごとに別々のプロベート手続きが必要になります。たとえば、香港に銀行口座、イギリスに不動産、アメリカに証券口座がある場合、3ヶ国でそれぞれプロベートを行うことになり、時間も費用も大きく膨らむ可能性があります。
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プロベートを回避する3つの方法
方法1 ― ジョイントアカウント(共同口座)と生存者権
ジョイントアカウント(Joint Account)とは、2名以上の名義で開設される銀行口座や証券口座のことです。ジョイントアカウントに「生存者権(Right of Survivorship)」が付いている場合、一方の名義人が死亡すると、その口座の残高は自動的に生存している名義人に移転します。この移転はプロベートの対象外となります。
ジョイントアカウントの最大のメリットはコストの低さです。口座の名義変更だけで済むため、弁護士費用や裁判所費用がほとんど発生しません。ただし、名義人を追加する時点で贈与とみなされる可能性があるため、各国の税制を事前に確認する必要があります。なお、銀行口座・証券口座だけでなく、不動産や非上場株式についても「ジョイントテナンシー(Joint Tenancy)」の形態で共同所有名義にすることで、同様に生存者権を活用したプロベート回避が可能です。
| 項目 | ジョイントアカウント |
|---|---|
| コスト | 低い(口座名義変更のみ) |
| 対象資産 | 銀行口座・証券口座・不動産・非上場株式(ジョイントテナンシーの場合) |
| プロベート回避 | 生存者権付きであれば回避可能 |
| 注意点 | 名義追加時の贈与税リスク、離婚時のリスク |
| 適している人 | 配偶者間での少額〜中額の金融資産 |
方法2 ― トラスト(信託)の設立
トラスト(Trust)は、財産の所有権を「受託者(Trustee)」に移転し、受託者が「受益者(Beneficiary)」のために財産を管理・運用する法的な仕組みです。財産の法的所有者が受託者となるため、設定者(Settlor)が死亡してもプロベートの対象になりません。
特に裁量信託(Discretionary Trust)は、受託者が受益者への分配の時期・金額を裁量で決定できるため、柔軟な資産承継が可能です。ただし、トラストの設立・維持にはまとまったコスト(設立費用、年間管理費、受託者報酬)がかかるため、一定規模以上の資産を持つ方に適しています。
| 項目 | トラスト |
|---|---|
| コスト | 高い(設立費用 + 年間管理費 + 受託者報酬) |
| 対象資産 | 金融資産・不動産・事業持分など幅広い |
| プロベート回避 | 確実に回避可能 |
| 注意点 | 設定者の資産支配力が制限される、税務上の検証が必要 |
| 適している人 | 大規模な海外資産を持つ富裕層・複数国に資産がある場合 |
絹川弁護士の経験談 「例えば海外の銀行口座については、手紙や名刺などから銀行名さえわかれば、その銀行の連絡窓口にメールや手紙等で被相続人名義の口座の有無を問合せすることができます。問い合わせたら相当残高があることも判明するので、バカにできません。」
方法3 ― 資産管理会社の活用
資産管理会社は、プロベートを「回避」するのではなく、プロベートが必要な国の数を「集約・削減」するための手法です。資産管理会社(Holding Company)を設立し、個人名義の海外資産を法人名義に移す方法です。個人が死亡しても法人は存続するため、法人が保有する資産についてはプロベートが不要になります。
ただし注意点があります。資産管理会社の株式が個人名義であれば、その株式自体がプロベートの対象になります。つまり、資産管理会社だけではプロベートを完全に回避できず、「株式のプロベートをどの国で行うか」を集約する効果にとどまります。
| 項目 | 資産管理会社 |
|---|---|
| コスト | 中〜高(法人設立費用 + 年間維持費 + 会計費用) |
| 対象資産 | 不動産・金融資産・事業持分 |
| プロベート回避 | 一定程度回避(株式のプロベートは残る) |
| 注意点 | 株主が個人の場合、株式がプロベート対象に |
| 適している人 | 複数国に不動産や事業を持つ方 |
複数国に資産がある場合の最適解 ― 統括会社+トラスト
統括会社による資産の集約
複数国に資産管理会社がある場合、1つの統括会社(Holding Company)のもとに子会社としてぶら下げることで、個人が直接保有する株式を1社分に集約できます。これにより、プロベートが必要な国が複数から1ヶ国に集約できます。
たとえば、香港・イギリス・アメリカにそれぞれ資産管理会社がある場合、シンガポールに統括会社を設立し、3社を子会社化すれば、個人が保有するのはシンガポールの統括会社の株式のみとなり、プロベートはシンガポール1ヶ国に集約されます。
統括会社の株式をトラスト化する
さらに、統括会社の株式をトラストに移転すれば、プロベートを完全に回避できます。これが海外財産の生前相続対策における最も包括的なスキームです。
ただし、この構造は複雑であり、税務上の影響(各国の移転価格税制、CRS、日本のタックスヘイブン対策税制など)を慎重に検証する必要があります。必ず国際税務と英米法の両方に精通した専門家の指導のもとで実行してください。
| 対策の段階 | 内容 | プロベート回避の程度 |
|---|---|---|
| 何もしない | 各国ごとにプロベートが必要 | 回避できない |
| 各国に資産管理会社設立 | 法人名義化で一定程度回避 | 一部回避(株式のプロベートは残る) |
| 統括会社で子会社を集約 | プロベートが1か国に集約 | 大部分回避 |
| 統括会社の株式をトラスト化 | プロベートが完全に不要 | 完全回避 |
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海外財産を持たないという選択肢
絹川先生はプロベート回避の手段として、ジョイントアカウント・トラストと並んで、「そもそも海外財産を持たないこと」を同等の選択肢として挙げています。少額の海外口座を維持するために多額の対策コスト(トラスト設立費用・資産管理会社の維持費)をかけることが本当に合理的かどうか、費用対効果の視点から冷静に判断することが重要です。絹川先生が指摘するもう一つの視点は、「海外財産を持つこと自体をあきらめる」という選択肢です。海外に少額の銀行口座を維持するためだけに、プロベート対策のコスト(トラスト設立費用や資産管理会社の維持費)をかけることが合理的かどうか、費用対効果を冷静に判断する必要があります。
少額の海外資産であれば、生前に解約・売却して日本に資金を戻す方が、結果的にコストが安く、遺族の負担も軽くなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. プロベートにはどのくらいの費用がかかりますか?
国や資産規模により大きく異なりますが、一般的に弁護士費用、裁判所費用、翻訳費用を合わせて数十万〜数百万円程度です。資産規模が大きい場合や複数国で手続きが必要な場合は、1,000万円を超えることもあります。
Q2. 日本に住んでいても海外のトラストを設立できますか?
設立自体は可能ですが、日本の税法上、トラストへの資産移転が贈与税の対象となる可能性があります。また、日本のタックスヘイブン対策税制の適用を受ける場合もあるため、日本の国際税務に詳しい税理士と、英米法に精通した弁護士の両方に相談したうえで進める必要があります。
Q3. ジョイントアカウントは誰と作るのが良いですか?
一般的には配偶者が最も適しています。親子間でのジョイントアカウントも可能ですが、一方の名義人が勝手に全額を引き出せるリスクがあるため、信頼関係が確実な相手に限定すべきです。
Q4. 香港の銀行口座はジョイントアカウントにできますか?
はい、香港のほとんどの銀行(HSBC、スタンダードチャータード、中国銀行(香港)など)でジョイントアカウントの開設が可能です。口座開設時に「Joint Account with Right of Survivorship」を指定してください。
Q5. 生命保険はプロベート回避に使えますか?
香港の生命保険契約は、受取人(Beneficiary)が指定されている場合、保険金はプロベートの対象外となります。これは生命保険がプロベート回避の有効な手段の一つである理由です。110グループでは、相続対策としての生命保険の設計もご相談いただけます。
海外財産の相続対策は「生前」がすべて ― 今すぐ専門家に相談を
海外に資産を持つ方にとって、相続対策は「死後の問題」ではなく「生前に解決すべき課題」です。プロベートの時間的・金銭的負担を遺族に残さないためには、ジョイントアカウント、トラスト、資産管理会社といった仕組みを生前に構築しておく必要があります。
対策の選択は資産規模と所在国の数によって異なります。少額であればジョイントアカウントや資産の日本への移転、大規模であればトラスト+統括会社の組み合わせが有効です。いずれの場合も、国際相続に精通した専門家への相談が第一歩です。
OSSJでは、海外での生活経験が豊富なスタッフが、海外での金融に関するお困りごとをサポートしております。移住先の国の税制や法律に関しては、信頼できる専門家におつなぎすることも可能なため、お金に関する問題の解決までお手伝いいたします。海外に移住したいけれど、税制や法律面が不安という方は、ぜひ一度お問い合わせください。
※本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。投資の最終判断はご自身の責任において行ってください。税務に関する詳細は、税理士等の専門家にご相談ください。
参考情報:
本記事は、絹川恭久先生のコラム「海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)」および「海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)」(silk-stream.com)の内容をもとに、OSSJ読者向けに再構成したものです。




