海外在住者の相続税に関する基礎知識と注意点-日本にある財産を相続する場合-
親御さんが日本にお住まいの海外在住者であれば、一度は「相続」の2文字が頭をかすめたことがあるでしょう。
「自分は海外にいるんだから、日本で相続税を払う必要はあるんだろうか?」
「もし親が海外にも財産を持っていたら、海外の財産にも相続税はかかるんだろうか?」と、海外在住だからこそ複雑になってしまう点もありますよね。
今回は海外に住んでいる方が日本にある財産を相続する場合に、日本の相続税が適用される範囲や手続きについて説明します。
お住まいの国と日本で税制が異なると、両方の国で税金の支払いが発生することも。基礎的な知識を頭に入れ、適切な対策をとりましょう。
※最終的なご相談については各国の税理士・会計士・弁護士などの専門家へご相談下さい。ご依頼がございましたらご紹介させて頂きます。
相続の話を展開するにあたり、まず理解しておきたい言葉が2つあります。「相続人」と「被相続人」です。
- 相続人…相続によって財産を受け取る側
- 被相続人…相続によって財産を渡す側
下の表は日本の相続税が適用される財産の範囲をまとめたものです。
課税対象となる財産範囲 | 被相続人 | ||||
相続時に日本に住所がある | 相続時に日本に住所がない | ||||
10年以内に日本に住所があった | 10年以内に日本に住所がない | ||||
相続人 | 相続時に日本に住所がある | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | ||
相続時に日本に住所がない | 10年以内に日本に住所があった | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | |
10年以内に日本に住所がない | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | 国内の財産 |
※相続人・被相続人ともに日本国籍の場合
国をまたぐ相続で日本の相続税が適用されるかどうかは次の2点がポイントです。
- 被相続人の財産がある場所(国)は?
- 相続人・被相続人が相続の直近10年以内に日本に住んでいた(住所を持っていた)か?
日本国内にある財産、海外にある財産に分けて考えてみましょう。
1. 日本国内の財産:日本の相続税が適用される
相続人・被相続人の片方、または両方が海外に住んでいようとも、「相続する財産が日本にある」なら日本の税制が適用されます。
たとえば親子ともに海外に移住していても、日本に預貯金や不動産がある場合、日本にある財産については日本の相続税の課税対象です。
2. 海外にある財産:相続時の住所や移住の時期によって日本の相続税が適用されないケースもある
ここでは相続人・被相続人ともに日本国籍である前提で話を進めます。
海外にある財産が日本の相続税の適用外となるのは「相続人・被相続人ともに、海外に10年以上住んでいる」ケースです(表で色を塗ったマスが対象)。
次に示す2パターンにおいては、海外にある財産についても日本の相続税が適用されます。
- 相続人・被相続人のどちらか片方でも日本に住所がある場合
- 相続人・被相続人の両者ともに海外在住でも、どちらかが移住して10年以内の場合
なお海外出張や留学で日本を一時的に離れている方は、日本国内に住所があるとされるので注意しましょう。
注意点:二重課税
二重課税とは、各国の税制の違いから、相続人が住む国と、相続財産のある国の両方で納税義務が発生することです。相続税の負担が著しく高まるため、問題視されています。
二重課税の調整方法として「外国税額控除」があります。所得税の額から一定額を差し引ける制度ですが、計算方法が複雑なため専門家へ相談したほうが確実です
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【ケーススタディ】日本在住の親が亡くなり、海外在住の子が相続する場合
今回は、被相続人が日本に住んでいて、相続人は海外在住のケースについて説明します(下表の黄色のマス)。相続人が海外出張や留学などで一時的に海外に住んでいる場合には緑色のマスに該当しますので、注意してくださいね。
課税対象となる財産範囲 | 被相続人 | ||||
相続時に日本に住所がある | 相続時に日本に住所がない | ||||
10年以内に日本に住所があった | 10年以内に日本に住所がない | ||||
相続人 | 相続時に日本に住所がある | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | ||
相続時に日本に住所がない | 10年以内に日本に住所があった | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | |
10年以内に日本に住所がない | 国内・海外の財産 | 国内・海外の財産 | 国内の財産 |
※相続人・被相続人ともに日本国籍の場合
被相続人が日本に住んでいて、相続人は海外に住んでいる場合、日本国内にある財産・海外にある財産どちらも日本の相続税の課税対象です。したがってすべての財産について日本で相続の手続きが発生します。
日本での相続手続きには印鑑証明や住民票が必要です。しかし海外に住んでいる相続人は印鑑証明・住民票を手配できません。印鑑証明の代わりに署名証明(サイン証明)を、住民票の代わりに在留証明書を取得する必要があります。
相続手続きは期限が決まっており、手続きも大変です。専門家に依頼すれば適切なサポートが受けられるほか、日本に帰国しなくても手続きを終えられる可能性があります。
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参考情報:タイ・香港・ベトナムそれぞれの相続税率
すでに海外にお住まいの方、これから海外移住を予定している方は、ご自身が被相続人となる場合も心配ではないでしょうか。ここでは参考までに、アジアのなかでも日本人が多く暮らす国・地域としてタイ・香港・ベトナムの相続税率を紹介します。
2022年の在留邦人数でタイは世界第4位、ベトナムも13位の多さを誇る国です。また香港は在留邦人の多い都市で世界第10位と、日本人が多く暮らしています。
ただし先述のとおり相続人・被相続人の両者ともに10年以上の海外居住者であれば、課税対象は日本国内の資産のみとなります。
タイの相続税率
タイの相続税率・課税対象者・相続税の対象となる資産を簡単に説明します。
【相続税率】
1億バーツ超の相続で10%の課税、相続人が直系尊属(親や祖父母など)または直系卑属(子・孫など)であれば5%です。
【相続税の課税対象者】
- タイ国籍を持つ人
- タイ国内に移民法に基づく住居を持つ外国人
- タイ国内の財産を相続する外国人
【相続税の対象となる資産】
- 不動産
- 有価証券
- 被相続人の預金
- 自動車
- その他法令で規定する資産
香港の相続税率
香港では、2006年2月11日以降に亡くなった方の財産について相続税がかかりません。
ベトナムの相続税率
ベトナムも相続税を採用していません。しかし相続で受け取った所得に対して「個人所得税」が課税されます。
【個人所得税の税率】
1,000万ドン超に対して10%
【納税義務者】
- 居住者
- 1年間の半数以上ベトナムに滞在する人
- ベトナム国内に恒久的な居住を有する人
- 非居住者
- 居住者に該当しない人
国外転出時課税(出国税)に注意
国外転出時課税制度は次の場合に所得税が課税される制度で、2015年に新設されました。
- 日本に1億円以上の資産を保有する方が国外転出(国内に住所・住まいがなくなること)する場合
- 原則として国外転出前10年以内において国内在住期間が5年超の方
- 日本に住んでいて1億円以上の資産を保有している方から海外在住の親族へ贈与や相続などがあった場合
注意したいのは後者です。相続税は相続人が納税するものですが、国外転出時課税制度は故人に対して所得税が課されるため、準確定申告(故人の確定申告)の手続きが必要です。
まとめ
海外在住者が日本に住んでいる方の財産を相続する場合、日本にある財産は日本の相続税の課税対象になります。また被相続人が海外にも財産を持っていると、海外にある資産にも相続税が発生する場合も。
二重課税、出国税など、海外転出・海外居住ならではの注意点もあります。税金の控除や支払いの猶予を利用するにも計算方法や手続きが複雑ですから、専門家へ依頼したほうが安心ですし、手続きも楽になるでしょう。
弊社では海外の金融に関するお困りごと解決を多数サポートしておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。