【専門家が解説】海外で亡くなった家族を日本へ。遺体・お骨の輸送から死亡届まで丁寧に解説
「海外に住む家族が亡くなった。故人を日本に連れて帰りたいが、どうすれば…」 「遺体のままか、ご遺骨にしてからか、どちらが良いのだろうか?」 「海外で取得した死亡証明書を使って、日本の役所に死亡届を出す方法が知りたい」
海外でご家族を亡くされた悲しみの中、日本とは事情の異なる手続きの数々に、途方に暮れてしまう方は少なくありません。特に、故人を日本にお連れし、慣れ親しんだ土地で供養してあげたいと願うとき、その輸送方法や法的な手続きは大きな壁となって立ちはだかります。
本記事では、海外で亡くなったご家族を日本に迎えるまでの一連の流れを、具体的なステップで分かりやすく解説します。国際相続の専門家である絹川恭久弁護士のブログ記事を基に、ご遺族が直面する課題を対応するための実践的な方法をご案内します。
本記事は、日本人国際弁護士として香港・NY州の法曹資格も有する絹川恭久先生のブログ記事「②海外から日本への故人のご遺体・お骨の輸送手配」、「③本籍地の市区町村役場に死亡届を提出、戸籍に『死亡』を反映」、「④法定相続情報証明制度について」を参考に、海外金融情報メディア「OSSJ」の読者向けに再構成したものです。専門的な内容を分かりやすく解説し、パートナーである絹川先生の確認を経て掲載しています。
海外で亡くなった故人を日本にお連れする最初のステップは、「ご遺体のまま輸送するか」「現地で火葬してご遺骨の状態で輸送するか」を決めることです。この選択によって、手続きの複雑さ、期間、費用が大きく異なります。
方法A:現地で火葬し「お骨」で日本へ輸送する(推奨)
最も現実的で、多くのご遺族が選択する方法です。手続きが比較的シンプルで、費用も抑えることができます。
手続きの流れ
- 現地の葬儀社に火葬を依頼: 在外公館(現地の日本大使館・領事館)に相談すれば、信頼できる現地の葬儀社を紹介してもらえる場合があります。
- 必要書類の取得: 火葬後、以下の書類を必ず取得します。これらは日本での埋葬や相続手続きに必要となります。
- 火葬証明書 (Cremation Certificate)
- 遺骨証明書 (Certificate of Remains)
- 死亡証明書 (Death Certificate) ※日本での死亡届提出にも必要です
- 日本への輸送: 多くの航空会社では、ご遺骨は「手荷物」として機内に持ち込むことが可能です。ただし、事前に航空会社の規定を確認することが重要です。
絹川弁護士のポイント解説 「持ち帰ったご遺骨を日本で適切に埋葬するためには、海外現地の『死亡証明書』のほかに、『火葬証明書』『遺骨証明書』などを取得しておかねばなりません。帰国後、日本でどのような書類が必要になるかは、必ずあらかじめ在外公館か日本の市区町村役場に確認しておきましょう。」
方法B:現地で防腐処理を施し「ご遺体」のまま日本へ輸送する
「故人の顔を見てお別れをしたい」というご遺族の強い希望がある場合に選択されますが、手続きは非常に複雑で、高額な費用がかかります。
手続きの流れ
- 防腐処理(エンバーミング): ご遺体の腐敗を防ぐため、専門の施設でエンバーミングを施す必要があります。
- 航空貨物としての輸送: ご遺体は旅客機の手荷物としては運べず、「航空貨物」として特別な手続きを経て輸送されます。
- 各種手配: 航空会社の指定に沿った棺の手配、日本の空港から安置場所までの霊柩車の確保など、多岐にわたる手配が必要です。
費用の目安 エンバーミング費用、航空運賃、霊柩車代などを含め、合計で100万円以上の費用がかかることも珍しくありません。海外旅行保険などでカバーされる場合もあるため、保険会社への確認は必須です。
| 輸送方法 | 手続きの容易さ | 費用 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ご遺骨で輸送 | 比較的容易 | 安価 | 最も一般的な方法。書類取得が重要。 |
| ご遺体で輸送 | 非常に複雑 | 高額(100万円〜) | 防腐処理が必須。専門業者のサポートが不可欠。 |
どちらの方法を選択するにせよ、ご遺族だけでの手配は困難を極めるため、「国際霊柩送還(Repatriation)」を専門とする日本の葬儀社や輸送サービス会社に相談するのが賢明です。「海外 遺体 輸送」などのキーワードで検索すると、複数の専門業者が見つかります。
ステップ2:日本の戸籍に死亡を反映させる|「死亡届」の提出
海外で発行された「死亡証明書」を取得し、故人を日本に迎えた後、次に行うべき最も重要な手続きが、日本の市区町村役場への「死亡届」の提出です。これを怠ると、故人は日本の戸籍上「生存している」状態のままとなり、その後の相続手続きを一切進めることができません。
なぜ日本の「死亡届」が必須なのか?
外国の政府と日本の政府は、死亡情報を自動的に共有していません。そのため、海外の役所で死亡手続きを完了しても、その事実は日本の戸籍には反映されないのです。ご遺族が、海外で取得した公的書類を基に、日本の役所に届け出ることで、初めて戸籍から故人の名が除かれ、「除籍謄本」を取得できるようになります。
絹川弁護士のポイント解説 「『死亡』が戸籍に反映されないと、日本国内の全ての相続手続きが開始できませんので、日本の役場に死亡届を提出することがとても重要です。紛らわしいですが、海外の役所と日本の役所、それぞれ別の手続きですから、海外と日本で2回手続きが必要になります。」
死亡届の手続きガイド
- 提出期限: 死亡の事実を知った日から3ヶ月以内
- 提出場所: 以下のいずれか。②の本籍地役場が最も早く処理されるため推奨されます。
- 海外現地の日本大使館・領事館(戸籍への反映に1ヶ月以上かかる場合も)
- 故人の本籍地の市区町村役場
- 届出人の所在地の市区町村役場
- 必要書類:
1.死亡届(役所の窓口またはウェブサイトで入手)
2.海外の役所が発行した死亡証明書の原本
3.上記2の日本語翻訳文(翻訳者の署名・押印が必要。ご遺族自身が翻訳しても構いません)
この手続きが完了して初めて、故人の死亡が記載された「除籍謄本」が取得可能になります。この除籍謄本こそが、日本の銀行口座の解約や不動産の名義変更など、あらゆる国内相続手続きのスタートラインとなります。
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ステップ3:国内の相続手続きを効率化する|法定相続情報証明制度の活用
無事に死亡届を終え、除籍謄本を取得したら、いよいよ相続手続きが始まります。故人が複数の銀行に口座を持っていたり、不動産を所有していたりする場合、従来は各手続き先にその都度、故人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(通称「戸籍の束」)の原本を提出する必要があり、大変な手間と時間がかかっていました。
この負担を大幅に軽減するのが、2017年に始まった「法定相続情報証明制度」です。
法定相続情報証明制度とは?
一度だけ法務局に「戸籍の束」と相続関係を一覧にした図(法定相続情報一覧図)を提出すれば、登記官がその内容を認証し、「法定相続情報一覧図の写し」という公的な証明書を無料で必要な通数発行してくれる制度です。この証明書が、その後の手続きで「戸籍の束」の代わりとなります。
メリット
- 時間と費用の節約: 何度も戸籍の束を取得する手間と費用が不要になる。
- 手続きの迅速化: 複数の金融機関や法務局での相続手続きを同時に進めることができる。
利用方法
- 故人の出生から死亡までの戸籍謄本等と、相続人全員の戸籍謄本を集める。
- 法定相続情報一覧図を作成する。
- 法務局に申出書とともに上記書類を提出する。
手続きはご自身でも可能ですが、司法書士や弁護士などの専門家に代理を依頼することもできます。
注意点:海外資産への適用と限界
この制度は、あくまで日本の国内法に基づく制度です。そのため、海外の金融機関での相続手続き(プロベートなど)では、この「法定相続情報一覧図の写し」が公的な証明書として認められない可能性があります。海外資産の相続には、現地の法律に基づいた書類(海外の死亡証明書、遺言書、現地の裁判所の命令書など)が別途必要となる点に注意が必要です。
まとめ
海外で家族を亡くし、日本で供養するまでには、大きく分けて3つのステップがあります。
- 故人を日本へ迎える: 費用と手続きの観点から「ご遺骨」での輸送が現実的。専門業者のサポートが不可欠。
- 日本の死亡届を提出する: 本籍地の役場に3ヶ月以内に届け出る。これが国内相続の第一歩。
- 国内相続手続きを進める: 「法定相続情報証明制度」を活用し、手続きを効率化する。
一つ一つの手続きは複雑で、精神的にも大きな負担が伴います。しかし、全体像を把握し、どのステップでどの書類が必要になるかを理解しておけば、一歩ずつ手続きを進めることができます。この記事が、困難な状況にあるご遺族にとって、少しでも道筋を示す羅針盤となれば幸いです。
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